建造物装飾の修理

単色塗り

TANSHOKUNURI

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単色塗り

単色塗り
TANSHOKUNURI

主材料

明礬(みょうばん)、膠(にかわ)、顔料(朱色:鉛丹、丹土等 白色:胡粉等 黄色:黄土等)

工程

旧塗装掻き落とし(修理時のみ)→礬水引き(どうさびき)→木地調整→下塗 →上塗

工法

旧塗装面を前鉋等で掻き落とし、木地の灰汁止め、顔料滲み止めに礬水を塗布します。
その後、膠で溶いた顔料を塗装します。

特長

朱塗の際に鉛を使用するため、特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者資格保有者が施工に当たります。朱色・群青色・緑青色・白色・黒色等 施工箇所に合わせて施工します。

単色塗りの歴史

中国、朝鮮半島から社寺建築が6世紀後半に伝えられ、一緒に彩色技術が伝来しました。赤色は、中国では高貴な色として尊重されており、寺院建築の装飾にも用いられていました。日本でも豊穣を表す色、魔力に対抗する色、生命の躍動を現す色として多くの社寺仏閣で使用されてきました。赤や白などの塗装は装飾だけでなく、木材の防腐という実用性もあります。塗装は数10年ごとに塗り替えが必要で、塗装を怠ると木部の腐敗の原因になります。

塗装部分塗り分けは一般的に軸部・組物・軒・妻飾・縁・高欄等に赤色、壁・琵琶板(小壁)等の板部へ白色、肘木・桁・垂木・隅木の木口に黄色、連子窓へは緑色を塗装することが多く、伝来当時の日本では素木の住宅が建ち並んでいたため,寺院の存在を主張する色彩であったと考えられます。赤色で使われている水銀朱・弁柄は縄文時代には土器に使用されており、鉛丹の最古の使用例は、法隆寺の金堂、上淀廃寺の壁画だと言われています。
水銀朱は古代の人たちに金や鉄と同様に貴重なものとして扱われており、丹生氏(にゅうし)と呼ばれる人たちが日本中を駆け回り、鉱脈を発掘していました。全国各地に丹生の付く地名が存在し、丹生神社という名前の神社が全国200カ所以上に存在していることが証拠と言えます。真言宗の開祖である空海が高野山を開いたのは、高野山周辺に水銀鉱脈があったことが理由の一つだと言われています。

単色塗りの技法

単彩色の修理作業には、最初に既存塗装面の剥離作業が必要です。

剥離作業を専門用語で「ケレン」といい、清浄な被塗面をつくることを意味します。現場では下地処理の意味でつかわれることが多く、鉋・ヘラ・ブラシ・スクレイパー等を使い木地に傷がつかないように手作業で掻き落とします。木材に残った粉塵・手脂を除去するために水拭きを行い、既存塗装面を除去します。木材にひび割れ・キズ・虫食いなどがみられる部分は破損箇所を彫り、除去したうえに、生漆にデンプン糊・綿・木粉等を練った刻苧(こくそ)をヘラで埋め込むことや、埋木を行い木地の調整をしていきます。必要に応じて木地のの吸い込み抑制・強化、塗装の接着強化のために膠水を刷毛で2回以上塗ります。この作業を捨て膠引きと言います。捨て膠が完全に乾燥した上に礬水(どうさ)を引きます。礬水引きは灰汁止めの為に行い、刷毛で2回以上塗布します。礬水は膠水に明礬(みょうばん)を入れたものを指します。

礬水引きの作業は日本画でも行われ、主ににじみ防止のために行われています。礬水が完全に乾燥した後に顔料を塗り重ねていきます。顔料は膠水と混ぜ合わせて制作していきます。均一に接着力を持たせるため少しずつ膠水を入れ、練り込むように顔料を混ぜ合わせていきます。膠は動物の骨・皮・腸・腱などを煮出したコラーゲンが原料で腐りやすく保存することができないため、使い切れる分量のみ制作します。

単色塗りに使用される顔料は伝統的な材料が主になります。赤色に朱(水銀朱)・弁柄(赤鉄鉱)・鉛丹(光明丹)、白色に胡粉・白土、黄色に黄土、緑色は緑青(孔雀石)、黒色に松煙墨などを使用します。
伝統的な材料は水に溶けにくく重たいものが多いので、ムラなく塗装するために刷毛に大量に含ませず、薄く塗り重ねます。塗装面に応じて刷毛の大小を変え、下塗り上塗りと同じように薄く丁寧に塗り重ねます。ムラなく塗装することは見た目以上に難しく、熟練の技術が必要になります。

単色塗りの施工範囲

朱色の建造物をイメージすると、神社や鳥居、灯籠が頭に浮かぶことが多いと思います。

理由の一つに、全国にある稲荷神社で朱色に塗装された建造物を多く見られることが挙げられます。赤色が「生命・大地・生産」を象徴するもので、稲荷の御霊の働きを表すものと信じられ朱色に塗装されています。その他の神社でも朱色に塗装されることは多く、懸魚・破風・千木・堅木と隅々まで塗り分けられ塗装されています。神社建築では玉垣に単色塗りを施すこともあります。

神社だけでなく伝統的な建造物へ単色塗りが施されていることは多く、寺院本堂・経蔵・仏塔・回廊・楼門などに施工します。

当社の単色塗り

顔料に鉛を使用するため、特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者資格保有者が施工に当たります。
また伝統的な顔料のみではなく、ご要望にあわせてアクリル材、ウレタン材を塗装することも可能です。長期的な色の変化や劣化を見据えた暴露試験を行い、建造物に適した塗料を準備し、塗装致します。

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